ゆとり世代の天才エッセイ『時をかけるゆとり』感想【28冊目】

朝井リョウといえば、ゆとり世代の小説家として有名です。

 

代表作には『桐島、部活やめるってよ』『何者』があります。

桐島ーはDVDを借りてみましたが、当時は原作者がまさか自分と同年代だとは思ってもいませんでした。同じ20代で華々しい活躍をしている天才。そんな印象がぬぐいきれませんでしたが、とある一冊のエッセイ本によってその固定概念は木っ端微塵に吹き飛んでいきました。

 

その本が『時をかけるゆとり』です。

 

 

内容紹介

就職活動生の群像『何者』で戦後最年少の直木賞受賞者となった著者。初エッセイ集では天与の観察眼を縦横無尽に駆使し、上京の日々、バイト、夏休み、就活そして社会人生活について綴る。「ゆとり世代」が「ゆとり世代」を見た、切なさとおかしみが炸裂する23編。

 

ゆとり世代の天才

どうして作家という人間は、日常生活を面白いように書けるのかが不思議でなりません。

直木賞受賞者として、ゆとり世代の成功者として、天才の域に達している一人のアーティストとしての書き出しが「お腹が弱いこと」から始まるのは一体どうしてなんだろう。

 

僕と同じ年代を生きた人の学生時代の思い出が詰まったエッセイ本として読み進めることができました。

友達と自転車で長旅をした話や、ポルノ映画を観に行った話など、失礼ですが読む前には「しょーもない話やわ」と思っていた僕でしたが、気づけば最後まで読んでしまっていました。

 

本の内容は本当に「しょーもない話」の集合体でしたが、最初のプライドはどこへやら。読み進めるたびに笑いをこらえるのに必死でした。作家さんの本気で書く「しょーもない話」は、カフェとか公共の場で読まないことをおすすめします。コーヒー吹きかけました。

 

親近感の湧くエピソード

同じ年代ということもあってか、親近感を持って読めた作品でもありました。

 

初めてスマホに機種変更するっていう話があるんですが、あれは無茶苦茶共感しました。

社会人になっても親の名義でスマホを持っている人が多いのですが、名義変更しないまま県外に旅立ってしまうと、親に委任状などを書いてもらわないといけなくなるんですよね。

しかも委任状は一筆でも間違えると即アウトになってしまう究極の鬼畜ゲームのようなもの。

なので県外に旅立つ前に、社会人になったらすぐ名義変更はしておきましょう、という話なのですが。

 

朝井家は親子そろって破天荒すぎる爆笑エピソードも盛りだくさんでした。

 

真面目な話もアリ

ゆとり世代の成功者という、敷居の高さを著者に感じていたのですが、この本でその幻想も打ち砕かれました。親近感を感じながら読み進めると同時に、なぜ彼が小説家を目指すようになったのかが気になりました。

 

読み進めると彼が、なぜ小説家を目指すようになったのかもしっかりと(しかも真面目に)書かれています。

 

そして中学二年生の冬、あらぬ方向へとずんずん進んでいく私の頭を、思いっきり殴りつけるような事件が起きた。

一月十五日。綿矢りささん、金原ひとみさんの芥川賞同時受賞。

テレビにふたりの姿が映ったとき、私は、目からうろこが落ちる思いだった。

作家って、同じように生きてるんだ。

自分も本を出さなければ。瞬間的に、私はそう思った。熱いヤカンに触れてしまった手をひっこめるときと同じように、その間に余計な感情は何ひとつ挟み込まれなかった。作家は生きている。私と同じように生きている。中学生になり背が伸びた私は、もう、絶対に届かないと思っていた図書館のあの本棚にも手が届く。人生ゲームの中でさえなかなか選択できなかった「小説家」に、たった五、六歳しか違わない人がなっている。

あの場所に行かなきゃ。背後に沿って真っ直ぐに一本、なにかが突き刺さったような気がした。

「自分とちがう生き物」ではないのは、学校の先生だけではなかった。作家、小説家だって、全然「自分とちが」わない。

 

ゴルフの石川遼選手やテレビで活躍する芸能人たちは、揃いも揃って僕と同年代だったりします。彼らの活躍を見て、どこか僕らとは違う人間なんだと思っていました。ですが、そうではないのです。

 

同じ人間だから。同じ日本人だから。

だからこそどんな人でも夢を追いかけてもいいんだと、そう勇気付けられるような文章でした。

お腹が弱い話や下ネタだけではありません。ゆとり世代ならではの苦悩や葛藤も織り込まれているとても素晴らしい作品だと思いました。

 

まとめ

星野源さんや村上春樹さんのエッセイ本なども読んだことはあるのですが、彼らとはまた違った「イマドキ」の人の書き方だなと思いました。

アイドルのエッセイなどと比べても、僕は圧倒的に作家さんが書いたエッセイが好きです。

とにかく文章が面白いし、そしてその中でもアツい情熱のようなものを感じられるからです。

 

ゆとり世代の人には共感を、上の世代の人にはゆとりが何を思って生きているかを感じてもらえる作品だと思います。

それではまた!

 

 

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