避けられない不幸を人は受け止めることが出来るのか?超名作『アルジャーノンに花束を』感想【7冊目】

数年前にユースケサンタマリア主演のドラマが放送されていました。結構有名なタイトルだったので、僕も自然と耳にしていたのですが、どのような物語かまでは知りませんでした。

そのドラマのタイトルが『アルジャーノンに花束を』でした。

今回はその原作小説を読みました。優しくて、そして悲しい物語でした。

 

内容(「BOOK」データベースより)

32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ・ゴードン。そんな彼に夢のような話が舞いこんだ。大学の先生が頭をよくしてくれるというのだ。これにとびついた彼は、白ネズミのアルジャーノンを競争相手に検査を受ける。やがて手術によりチャーリイの知能は向上していく…天才に変貌した青年が愛や憎しみ、喜びや孤独を通して知る人の心の真実とは?全世界が涙した不朽の名作。著者追悼の訳者あとがきを付した新版。

 

素晴らしい作品でした

知的障害を抱えたチャーリイが実験によって知能がみるみる向上していきます。白痴(知能の程度がきわめて低いこと)の頃には感じることのできなかった思考や感情が一気にやてきます。

彼のIQは70だったけれど、とうとう190にまで達したのでした。

彼を取り巻く仕事仲間や家族など、今まで知らなかった他人との交流を経て、チャーリイは何を思い、そしてどうなっていくのか。非常に引き込まれる物語でした。

 

今までに読んだことのない文体

物語はチャーリイの一人称で進んでいきます。実験のレポートとして「経過報告」としてチャーリイが文章を書いていくわけですが、最初は白痴の状態で書かれているので誤字脱字がかなり激しいです(あとはほとんどひらがなで書かれています)。

次第に実験の効果が出てくると誤字脱字がなくなり、知能のある人間の文章へと生まれ変わります

白痴から天才に生まれ変わったチャーリイの人生は好転していくかのように思われました。しかし向上したIQと反比例するかのように、彼を取り巻く環境は良くない方向に変化していきます。

今まで友だちのように接してきた職場の同僚たちは、知能を得たチャーリイをこぞって恐るようになります。また自分が実験台にされていた事実を理解し、自分よりもIQの低い教授たちに怒りを感じるようにもなります。

普通の人間として生きようとしたチャーリイでしたが、普通以上の知能を手にいれたことにより、今まで得られていた幸福感を手放してしまったんですね。

 

止められない副作用

物語の終盤でアルジャーノン(実験台の白ネズミ)が死んでしまいます。実験の副作用か分かりませんが、その姿を見たチャーリイは、自分もいつか知能を失ってしまうのではないかと恐るようになります。

この沸きたつエネルギー、私がなすことすべてを満たすこの熱意を奪い去ってしまうようなことが起きるなどとは信じがたい。それはあたかもこの数カ月に吸収したすべての知識が合体して私を光明と英知の高みへと引きあげてくれるかのようであった。これは美であり愛であり、真であり、それらがすべてひとつになったものだ。これは歓びである。それを発見したいま、どうしてそれがあきらめられようか?人生と仕事は人間が所有しうるもっとも素晴らしいものだ。私はいま自分がしていることに熱情を感じている。なぜならこの問題の答は、ここに、この私の頭の中にあるからだ、そしてまもなくーーもうすぐにーーそれは意識の表層に噴出するだろう。われをしてこのただひとつの問題を解かしめよ。それが私の望んでいる答であるようにと神に祈る、よしんばそうでなくとも、いかなる答も私は受け入れ、与えられたものに感謝を捧げるようつとめよう。

 

後半部は文章の誤字脱字やひらがながかなり目立ち、知能が低下していくことが読み取れます。彼は知能の低下を食い止めるべく、新しい本を読んだり、勉強をしたりするのですが、その努力もむなしく、知能は低下していきました。

 

何が本当の幸せなのか

白痴だった頃の彼には少なくとも友だちがいたし、わずかながら幸福感も持ち合わせていました。それが知能を得たことで破壊され、幸福感も失われてしまいました。

知能がないことが不幸で、知能があることが幸せだという絶対的な方程式があるものだと、僕らは思っています。しかし知的ゆえに気づかなくてもいいことに気づいてしまったチャーリイは不幸になってしまったのでしょうか。

ぼくの知能が遅滞していたときは、友だちが大勢いた。いまは一人もいない。そりゃ、たしかにたくさんの人間は知っている。ほんとうにたくさんの人間をね。でもほんとうの友だちは一人もいやしない。パン屋にいたときはいつもいたのにね。ぼくに何かをしてくれようという友だちはどこにもいないし、ぼくが何かをしてやろうという友だちもいない」しだいに呂律がまわらなくなってくる。頭がふらつく。「これが正しいと言えますかね?」

 

まとめ

チャーリイは実験で悪戯に知能を与えられ、そして奪われました。

僕らは生まれたときが最も若く、そして老いて死んでゆきます。老いは誰にでも平等にやってくるもので、進行は遅くすることができても、絶対に避けることができません。物語の後半部では、まさにそれと同じ抵抗を感じました。

個人的には誰にでも訪れる不幸を描いた作品だと僕は思いました。人は老いることで知能は低下しますし、痴呆も進みます。避けるけることのできない不幸を、人はどのように受け止めたらいいのか。あるいは受け止めきれるものではないのかもしれません。そのことについて考えさせてくれる物語でした。

 

心優しい一人の青年を描いた作品です。読んで損は絶対ありません。ぜひ一読ください。

 

それではまた!