蜜蜂と遠雷とのギャップがものすごい『失われた地図』感想【15冊目】

『六番目の小夜子』『夜のピクニック』と順調に恩田陸先生の作品にハマり、最近では直木賞を受賞した『蜜蜂と遠雷』も読みました。激しい才能のぶつかり合いに心を熱くしたのを今でも鮮明に思い出せます。

今回読んだのは『失われた地図』という本なのですが、今まで読んだ本とは真逆の内容で、言ってしまえば…どう捉えていいのか分からない本でもありました。

内容(「BOOK」データベースより)

川崎、上野、大阪、呉、六本木…日本各地の旧軍都に発生する「裂け目」。かつてそこに生きた人々の記憶が形を成し、現代に蘇える。記憶の化身たちと戦う、“力”を携えた美しき男女、遼平と鮎観。運命の歯車は、同族の彼らが息子を授かったことから狂い始め―。新時代の到来は、闇か、光か。

 

恩田陸ワールドフルスロットルは作品

ざっくり言うと、主人公たちは得体の知れない何かと戦う一族で、そのことについて苦悩したりする様を描いた作品です。

川崎、上野、大阪、呉、六本木…日本各地の旧軍都に発生する「裂け目」から湧き出てくるのは「グンカ」と呼ばれる怪物?悪霊?です。

なぜ「裂け目」と呼び、「グンカ」と呼ぶのか。作品の終盤においても一切語られることがないので、完全に読者の脳内補完で済ませるしかありません。まさに恩田陸ワールド全開です。

 

「グンカ」についてわかっていること

人の気持ちに応じて現れる怪物である

「ま、率直に言って、戦争したがってるヤツが増えてるからじゃないの?」

カオルがあっさりと答える。

「そうかなあ」

俺は首をひねった。が、カオルは「そうよ」と大きく頷く。

「『グンカ』の奴らは、戦争したい、戦争起きればいいのにって思う連中が増えるとその気配を察して、『裂け目』破ってわらわら湧いてくんのよ。人間てのは、じりじりコツコツ暮らすのが嫌な連中がいつも一定数いるわけ。何か起きないか、一発逆転できないか、これまでの世界がチャラにならないかってきょろきょろしてる連中ね。そういうヤツって、しばらくおとなしくしてると飽きてきちゃって、じわじわ数が増えてくんのよね。クラスにいたでしょ、静かに自習してなさいって言われると、五分もじっとしてられなくて、すぐに席立って騒ぐヤツ」

 

時代に応じて現れる

「『グンカ』が大好きなのは、抑圧されたルサンチマン。抑圧された自己愛。常におのれの不遇の責任転嫁先を探す不満ーーそういったところかしらね」

カオルは歌うように言った。

「あいつら、だいたい眠ってるけど、いつでもそういった連中と結びつく準備はできてる。いつでも意識下に充満してるそいつらに取り付く。そういう時代の空気、都市の空気に忍び込んで、馴染んで、乗っ取る」

 

戦い方はぷちぷちを潰すようなもの

本当のことを言うと、俺はこれまで「グンカ」のことを怖いと思ったことはなかった。

彼らはしょせん木偶である。彼ら自身には意思はなく、あるのはただ反射のみ。その場その場の集団的無意識に反応しているに過ぎない。動きそのものもただの木偶であるから、とにかく根気よく片付けていくしかない。俺たちは、よくアレに喩えていたーーほら、宅配便なんかによく入っている、いわゆる「プチプチ」というやつだ。手にすると、どうしてもひとつ残らず指で潰さずにはいられないあれ。とにかく隅から隅まで、残っているものはないかと確かめつつ、粛々と潰していくあの感じ。俺たちにとって、「グンカ」はあれに似た存在だった。

 

以上の点から、「グンカ」は何となくそういうものなのだという風に捉えて、物語を読み進めていく必要がありました。

 

今までの作品とのギャップがすごい

『蜜蜂と遠雷』を読んだ後だと、かなり困惑してしまう作品ですね。期待して読んでしまうと、(良し悪しは置いておいて)ある意味期待を裏切られる作品だと思います。それぐらい今までの作品とは180度違った作風と言えるでしょう。

何せ広げた伏線は全て散らかったままで、回収はされないまま。「裂け目」も「グンカ」もよく分からなかったし、登場人物たちに感情移入も出来ないまま、世界の終焉が訪れる、みたいな感じで物語が終わってしまいました。

 

似たような作品で、恩田陸先生の『光の帝国 常野物語』という作品があります。この作品は異能を持つ一族が一般社会に溶け込み、苦悩するも精一杯生きていくという物語でした。異能を使ったSFバトルという点では、先生が得意なジャンルだったのかなと思いました。ただ何というか、本当に作者が好きで書いた作品といった印象です。良い風に捉えれば、先生の新しい一面が見られる作品だとも言えるでしょう。

 

『蜜蜂と遠雷』で初めて先生を知った人たちにとっては新たな一面が見られる作品に。ファンにとってはいつもの先生が戻ってきたという作品になったのではないでしょうか。

SF要素満載で、シリーズ化したら面白いんじゃないかなあと思います。今後の作品にも期待したいですね。

 

それではまた!