学生時代に絶交されたトラウマを払拭する旅『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』感想【3冊目】

村上春樹の作品を僕は一度も読んだことがありませんでした。読もう読もうと思うと、どうしても作品から遠ざかってしまっていました(エッセイ本は2冊読んだ経験あり)。書店で平積みされている『騎士団長殺し』を見て、きっと村上春樹は面白いんだろうなぁと、すれ違いざまに興味が湧いていたのでした。

で、いよいよ手に取った作品が、『騎士団長殺し』…ではなく『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』でした。(ブックオフでまさかの108円でしたので)

思わず手に取り、すぐさま読了。村上春樹の独特な世界観に圧倒されました。

 

内容紹介

多崎つくる、鉄道の駅をつくるのが仕事。名古屋での高校時代、四人の男女の親友と完璧な調和を成す関係を結んでいたが、大学時代のある日突然、四人から絶縁を申し渡された。
何の理由も告げられずに――。
死の淵を一時さ迷い、漂うように生きてきたつくるは、新しい年上の恋人・沙羅に促され、あの時なにが起きたのか探り始めるのだった。全米第一位にも輝いたベストセラー!

 

初めて手に取った村上作品。最初の印象は、まずタイトルの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』というのが、長いタイトルきた〜と感じました。ラノベタイトルで、「俺の妹が〜」とか「僕は友達が〜」とかそういう類の、いわば世間受けするタイトルをつけて中身はとってもポップなのものかと。本を読むまではそんな想像もしていたのですが、見事その想像は覆されました。

 

物語は多崎(たざき)つくるという主人公が過去のトラウマを払拭すべく巡礼の旅に出るというもの。

そのトラウマというのは、大学時代に仲のよかった友人たちが、ある日突然つくるのことを、理由もなしに絶交したことでした。ある意味では運命共同体として行動を共にしていたつくるは、訳もわからないまま孤独になりました。本人にとってはとてもショックで、自分の命すらも脅かすほどに精神的に追い詰められました。

大人になり鉄道会社に就職し、新しい恋人もできた。しかし年数が経過し、36歳になった彼はいまでもそのトラウマが忘れられずにいました。

恋人からそのトラウマを払拭しなければ、私たちは上手くいかないと諭され、彼はかつて仲間だった同級生の元を訪れます。過去に明かされなかった、なぜ突然絶交されたのか、その真実を探る旅にでます。

 

実に身近で、言ってしまえばどこにでも(誰にでも)存在するような話だなと思いました。

ある日突然誰かと仲が悪くなってしまった。または学校を卒業したと同時に疎遠になってしまう人がいるのは、何も不思議なことではありません。誰かが誰かと、自然に全く合わなくなることは誰にでも起こりうることだと思います。

そんな身近に起こりうることを、あえて掘り下げて読者を惹きつける書き方が出来るのは、やはり村上春樹の成せる技なのだなとも思いました。

 

 

「色彩を持たない」というのは、つくるを除いて同級生4人の苗字に全て色が含まれていたからです。

赤松 慶(あかまつ けい)

海 悦夫(おうみ よしお)

白根 柚木(しらね ゆずき)

黒埜 恵里(くろの えり)

そして多崎つくる

つくるのみが苗字に色がついていません。これは大学時代に「色彩を持たない」と呼ばれたことから、彼自身も気にしていたことでした。自分には長所もなく、人生に大きな挫折もなくただなんとなく生きてきた。そんなコンプレックスを感じながら生きてきたことも「色彩を持たない」に繋がっていると思います。

 

絶交されたことで自分を被害者だと思っていたつくるですが、仲間の元を訪れることで、事の真相にたどり着きます。実は××が××されてしまっていたのです(ネタバレは避けますのでぜひ本を手にとってください)。

つくるは言った。「僕はこれまでずっと、自分のことを犠牲者だと考えてきた。わけもなく苛酷な目にあわされたと思い続けてきた。そのせいで心に深い傷を負い、その傷が僕の人生の本来の流れをそこなってきたと。正直言って、君たち四人を恨んだこともあった。なぜ僕一人だけがこんなひどい目にあわなくちゃならないんだろうと。でも本当はそうじゃなかったのかもしれない。僕は犠牲者であるだけじゃなく、それと同時に自分でも知らないうちにまわりの人々を傷つけてきたのかもしれない。そしてまた返す刃で僕自身を傷つけてきたのかもしれない」

 

そのほかに感想としては

・つくるがコンプレックスを感じているところに感情移入しやすかった。

・レクサスに乗ってみたくなった。

・学生時代の同級生に会いたくなった。

 

村上作品は初めてで、読んでみると表現が独特なのでちょっと読みづらいかなとも思ったのですが、ページ半分を過ぎたあたりからどんどんのめり込んでいきました。中でもアカとアオの話は個人的に面白かったです。ハルキストたちはたぶんこの本を読んだらレクサスに乗りたくなるはずです(笑)

次読む本は『騎士団長殺し』か、はたまた…。

それではまた!